若村勝昭さん
山岳遭難対策制度のネットワークを広げたい。
「自救力」という言葉をご存知でしょうか。いざという場面で、自分たちに何ができるのか。今週はこの言葉を発案した日本山岳救助機構合同会社(jRO:ジロー)の若村勝昭さんに聞きました。「ヤマモリ」という電子捜索機器の取扱いを開始したり、ヤマケイ登山教室の新講座「遭難事例研究」に協賛いただくなど、若村さんの、この分野への思いと行動は多岐に渡っています。
(聞き手=久保田賢次 『週刊ヤマケイ』編集長)
久保田:「自救力」。改めていい言葉ですね。お考えになったのも、若村さんご自身とうかがいましたが。
若村:はい。セルフレスキューの言葉を漢字にしただけかも知れませんが、「自らを助ける」、「ダメージを少なくしてチームレスキューに引き継ぐ」という気持ちを込めたものです。
以前、こんな残念な事例がありました。メンバーの一人が登り始めてまもなく倒れてしまいましたが、ほかの人たちは驚いて、茫然自失で手をこまねいているだけしかできませんでした。たまたま通りかかったグループに看護師さんがいらして、心肺蘇生をしましたが間に合わなかった。もし、倒れたときすぐに、なにかやれていたらと思いました。
久保田:その普及のために、具体的には、どんな活動をなさっているのでしょうか。
若村:昨年6月から全国の県庁所在地などを中心に講習会を開いています。日本山岳救助機構の会員さんに向けたものではありますが、今日(10月22日、インタビュー時)は京都で、明日(23日)は札幌で開催します。講師も地域のガイドさんなどにお願いしています。みなさんが、各地域の山の世界の指導的な立場の人と、つながりを持ってほしいという気持ちからです。
久保田:この夏からは、「ヤマモリ」という捜索機器の取扱いも開始されました。こちらは、どんなきっかけですか。
若村:もともとは災害用に開発されたものなんです。テレビ番組で紹介されたのを見て、さっそくコンタクトしました。名称は「ヒトココ」で、各山岳団体さんも扱いを開始しましたが、私たちは山のお守りという意味で「ヤマモリ」と名づけて、会員を対象に販売とレンタルを始めました。雪崩の際に役立つビーコン等と異なる点は、かなり広い範囲の捜索に使えることです。遭難の原因は道迷いが45~47%ですので、道に迷った人の発見に役立てたらと思いまして。子どもたちの林間学校などに導入されている例もあるようです。
久保田:この春から開講したヤマケイ登山教室「遭難事例研究」にもお力添えいただきまして、ありがとうございます。
若村:こうした、実際の遭難事例の詳細を勉強して学ぶという講座は、他にはあまりないですよね。私も毎回、参加させていただいていますが、みなさん、本当に熱心にお聞きになっています。こういう講座を積極的に受講されようという人は、ご自身も山の危険を真剣に考えていたり、貴重な経験をなさった方々でしょうから、みなさんの「ヒヤり、ハッと」な体験などをお話してもらうのもいいかと感じます。