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『剱人』(星野秀樹)

連載第13回(著者=小林千穂/山岳ライター・編集者)

一流の人を集める山

『剱人』は2011年4月号から12月号まで『山と溪谷』に連載された記事をまとめているので、目にしたことのある人も多いだろう。剱岳と深く関わる9人の「剱人」を著者が訪ね、剱岳への思い、山への姿勢などがそれぞれの人生とともにまとめられている。

著者の言葉に「剱岳が呼び集める人たちは、他の山では出会えないような、何か独特な臭気を発している。単に個性的という存在ではない、『何か』を秘めている」とある。たしかに、ここに登場する人は、直接会って話を聞いてみたくなるような独特の山の世界感を持っている。

剱は近い裏山、遊び場だという地元の登山家、「雪を見る目」をもつ山岳ガイド、剱岳に学び、登山者の安全に気を配る山小屋経営者、自らの体を賭けて登山者を救う元山岳警備隊員、麓に腰をすえ「魂の山」を撮る山岳写真家――。生死を日々実感する山の中で生きる人が発するメッセージは、ひとこと、ひとことが心を強く打つ。

剱岳との向き合い方はそれぞれに大きく違う。しかし共通しているのは、剱岳が他の山とは違う存在であり、生き方に大きな影響を与えたその山に強く惹かれているということだろう。

深く山を知る人の言葉によって、剱岳という山の特異性が浮き彫りになっている。山岳ガイドの稲葉英樹さんは「ひとつの山であれだけバリエーションが詰まっている山はない。雪がめちゃめちゃ多くて、懐が深い。谷も深い。そいうことを知れば知るほど、凄いところなんだな」と言う。

また、冬と春に北方稜線から14回、剱岳の山頂に立った登山家の和田城志さんは「剱はきっと、緊張感の持続を求める、自然本来の姿をもっている」と語る。そして何人かが語るのが、同じ北アルプスの穂高との違いだ。冬、すさまじい量の雪が降り、深い谷を持つ剱岳。その凄さを知れば知るほど、人は強く引きつけられるのかもしれない。

留めておきたい剱人の言葉

本書に綴られた剱人のメッセージは、山との距離感、向き合い方を私たちに伝えてくれる。山岳写真家の高橋敬市さんは「立山とか他の山には感じなかったことだが、ここから先は、もう自分は入っちゃいけない世界、というのが剱にはある」と話し、山のプロであっても、一線を引いて、慎重にならざるを得ない山だという。

遭難事故を見続けた佐伯友邦さんの「山を自分の都合に合わせようとする人もいるけれど、それはむしがよすぎる」という言葉は、私たちが忘れてはならないことだし、「山のなかでは、どんな細かいことでも『ま、ええか』というのはないんや。適当にやっていたら、しっぺ返し来るの全部自分やからな」冬の剱に通い続けた和田城志さんの言葉は重い。剱人は、私たち登山者も心に留めておきたい、多くの教訓を与えてくれる。

山に惹かれるのは、険しさや美しさであることに間違いはない。しかし、山の魅力のひとつとして、その山に生きる「剱人」のような存在があることも、この本は教えてくれるだろう。

信州の山岳遭難現場より

島崎三歩の「山岳通信」

長野県では、県内の山岳地域で発生した遭難事例をお伝えする「島崎三歩の山岳通信」を配信しています。

3月29日に第106号が、4月3日に第107号が配信され、2月27日から3月18日にかけて長野県で発生した遭難事例10件が掲載されております。

3月9日に中央アルプス宝剣岳で発生した遭難について、実際の救助の様子が動画で公開されております。遭難が発生したとき、救助隊員が危険を冒して活動していることも確認できます。下記URLよりご覧ください。

【中央アルプス宝剣岳における道迷い遭難】(youtube)

https://youtu.be/TkuZS8bMRAA

***

・2月27日、野沢温泉付近の毛無山で51歳の男性がバックカントリースノーボード中に滝にはまり、行動不能となりましたが、無事救出されました。

2月27日、毛無山で行動不能になったバックカントリースノーボーダーの救助の様子(写真=長野県警察本部 ホームページ 山岳遭難発生状況(週報)3月8日付より)

・3月4日、北アルプス白馬乗鞍岳で58歳の男性がバックカントリースキーに向かったまま帰宅せず、行方不明となりました。男性の特徴は身長168cm、中肉、色不明のスキーウェア、黒色ズボン、黒字に赤色系グラデーション模様のショートスキーという情報が提供されています。

・3月3日、中央アルプス宝剣岳で45歳の男性が山頂付近を登山中に何らかの理由で滑落、心配停止となりました。県警ヘリと県警山岳遭難救助隊が現場に向かいましたが、悪天候のため天候の回復を待ち、3月7日に救助を再開し木曽署に収容され、死亡が確認されました。

3月9日に中央アルプス宝剣岳で道に迷い行動不能になった男性の遭難救助現場の様子(写真=長野県警察本部 ホームページ 山岳遭難発生状況(週報)3月15日付より)

・3月9日、中央アルプス宝剣岳で48歳男性が山頂から下山中に道に迷い、行動不能となりました。翌10日、県警山岳遭難救助隊及び県警ヘリで捜索し、県警ヘリで遭難者を発見し、救助しました。

・3月10日、浅間連峰黒斑山で、51歳の男性が黒斑山から下山中にバランスを崩して転倒、足を負傷し、県警ヘリで救助され、病院へ搬送されました。

・3月11日、中央アルプス中岳で、26歳の女性が下山中に体調不良による疲労のため、歩行困難となりました。県警山岳遭難救助隊及び遭対協が出動したものの、遭難者は他のパーティの支援を受けて自力でロープウェイ千畳敷まで下山しました。

・3月11日、八ヶ岳連峰横岳で、32歳の女性が稜線付近を登山中にバランスを崩し約100m滑落して負傷。県警ヘリにより救助され、病院へ搬送されました。

・3月17日、八ヶ岳の東天狗岳で60歳の女性が東天狗岳から黒百合平へ下山する際にバランスを崩して滑落。ロープでつながれていた同行の59歳男性も滑落し、ともに負傷しましたが、県警ヘリにより救助されました。

・3月18日、北アルプス鹿島槍ヶ岳北壁を登攀中の42歳男性がなんらかの原因により滑落し、倒れているのを別の登山者が発見。県警ヘリにより救助しましたが、死亡が確認されました。

・3月18日、鍋倉山で山頂からスノーボードで滑走していた44歳男性が立ち木に衝突、負傷しましたが県警ヘリに救助されました。

(内容は長野県警察本部の発表時点のものです)

・・・

下記URLより、「島崎三歩の山岳通信」バックナンバーもご覧いただけます。今後の登山にぜひ役立ててください。

http://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/sangyo/kanko/sotaikyo/sangakutusin.html

(文=週刊ヤマケイ編集部)

伊藤哲哉さん

分県登山ガイド『千葉県の山』の共著者が語る「千葉県の山の魅力」とは

ふるさとの山を収録して、多くの人に親しまれてきた分県登山ガイド。週刊ヤマケイの常連寄稿者でもある伊藤哲哉さんは『千葉県の山』の共著者のひとりです。今回は伊藤さんに千葉県の山について語っていただきました。

御殿山からの眺望。東京湾越しに富士山(写真=伊藤哲哉)

週刊ヤマケイ:今回の本で、伊藤さんが伝えたかったものとはなんですか?

伊藤:いちばん伝えたかったものは、千葉の低山の魅力です。特に房総では東京湾越しに富士山が見えます。このように海と山が接近しているので、美しい海の景色が眺められるのが、千葉の低山の魅力です。

また、九十九谷のように、幻想的な雲海は遠くに行かなくても、関東近辺でも見ることができます。

そして多くの方がご存知だと思いますが、スイセンや菜の花など花に囲まれた美しい散策コースがあることも、また千葉の低山の魅力です。

九十九谷の雲海(写真=伊藤哲哉)

週刊ヤマケイ:執筆で苦労されたことは、どのようなことでしょう?

伊藤:やはり、コースの様子を伝えるにはどんな言葉が適切か、言葉選びがいちばん苦労しました。

週刊ヤマケイ:最後に、取材したけれども紹介しきれなかった場所があれば、教えてください。

伊藤:四方木の滝、七里川渓谷、磯根海岸のハマヒルガオなどです。ぜひ一度、訪れてみてください。

打田鍈一さんと行く、群馬県上野村の山開き

4月22日、笠丸山へ

第10回を迎える上野村の山開き。今回のコースは新高畑橋→地蔵峠→笠丸山西峰→東峰→住居附→新高畑橋(写真=打田鍈一)

西上州の山といえば、この人。打田鍈一さん。『藪岩魂-ハイグレード・ハイキングの世界-』(弊社刊)など、著書多数

週刊ヤマケイでもおなじみの山歩きライター、打田鍈一さんと行く山開きイベントが群馬県上野村で開催されます。村の魅力をたっぷり味わえる前泊プランもありますので、興味のある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか?

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日時:4月22日(日)

上野村 森の体験館駐車場にて9:00より受付開始

参加費:4000円(お弁当、温泉入浴料込み)

定員:80名(申込先着順)

送迎:JR高崎駅東口1F交番前に朝7:30集合。要予約。

参加者特典:上野村特産イノブタ汁、しおじの湯温泉入浴

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前泊プラン:4月21日から上野村に泊まるプランもあります。打田鍈一さんのスライド講演会や懇親会も。前泊プランの参加費は15000円です(宿泊代、山開き参加費込み)。

『攻める山城50城』

探検魂をゆさぶる山城トレッキングガイド

『攻める山城50城』/著者=清野明、監修=萩原さちこ/2月16日発売/1500円+税/A5判/216ページ/ISBN:978-4-635-60017-0

戦国時代の残像、山城に出会う旅へ! 石造りの巨大要塞、総石垣作りで知られる群馬の金山城や、武田信玄も落とせなかった八王子の滝山城、そしてその名のとおりまさに堅牢な要害である山梨・要害城などなど。本書では東京・神奈川・埼玉・千葉・山梨を中心に、関東と近県の主要な50の山城を歩いて訪ねるハイキングコースを紹介します。

身近な山々にひっそりと残る遺構を訪ね、いにしえの時代に思いをはせながら、日帰りで楽しめる山城トレッキングにあなたも親しんでみませんか。

日高山脈・ピリカヌプリ(前編)

美しい響きの名前をもつ山へ

恐怖心を克服して細尾根に挑む(写真=谷水 亨)

朝陽に染まるピリカヌプリをバックに稜線を歩く(写真=谷水 亨)

3月27日~29日、晴れ、強風、トレースなし

「ピリカ」。アイヌ語を語源とする北海道の山々にあって、これほど美しい響きの名前をもつ山はないでしょう。音の響きだけではなく、その意味も「美しい」というものです。昔のアイヌの人々はどこからこの山を見てそう思ったのでしょうか? 十勝平野からはそのような美しいと思える風貌はなく、稜線を1日歩いた末に、その美しさに触れることができます。かつてアイヌの人々がそこに立ち、この名前をつけたとすれば、偉大なる狩猟民族であったことに間違いありません。ちなみに、北海道のブランド商品名にも「ピリカ」という単語が多く使われています。

その頂きに立つのは容易なことではありません。もちろん登山道はなく、冬期に稜線歩きか、夏期に沢登りからの過酷なルートを選ぶしかないのです。条件が整うまで何度も挑戦しないとその美しさに触れることができない、南日高三山のひとつでもあります。

3日前、ふたりの友人が往復20km、10時間をかけて日帰りでその頂きに立ちました。快晴、微風、カリカリの雪面、適度な積雪という好条件であったとはいえ、驚異的なスピードです。

昨年、私はヒザラッセルを2日間強いられ、1泊2日でその頂きに立つことができました(週刊ヤマケイ237号)。今回は、その先にそびえ立つ、もうひとつの南日高三山のソエマツ岳に2泊3日で挑戦します。しかし、5日間の暖気に雪がゆるみ、数知れぬ踏み抜き、雪付きが少なくさらに細さを増す尾根。3日間吹き荒れる15~20mの強風に足がすくみ、前進できない時間が多くなり、ピリカヌプリまでの山行となりました(後編は次週以降に掲載予定)。

(文=谷水 亨/北海道アウトドア夏山ガイド認定者)

鳥海山・月山森

庄内平野を眼下に望みながら登る積雪期限定ルート

月山森山頂から見た千畳ヶ原と、それを取り囲む笙ヶ岳、御浜、扇子森の峰々(写真=曽根田 卓)

月山、朝日連峰、庄内平野を眺めながらオープンバーンを下る(写真=曽根田 卓)

3月31日、晴れ

月山森は行者岳、伏拝岳、文珠岳が連なる鳥海山の外輪山の南西側に位置する寄生火山です。夏場には湯ノ台口の河原宿小屋跡より千畳ヶ原へ抜ける登山道から、山頂へ続く踏み跡をたどって登ることができますが、今回は積雪期限定の三ノ俣(みつのまた)から山頂を往復するルートをとりました。

遊佐町から月光川ダムを目指し、三ノ俣集落を過ぎた先に農林漁業体験実習館さんゆうという施設があります。そこが積雪期の月山森登山口になります。

簡易リフト1基が設置された三ノ俣さんゆうスキー場の雪が消えたゲレンデを登り、広大な畑地を通過すると、かつて「マウンテン鳥海スキーパレス構想」のもと、遊佐町が30年近く前に標高920m付近までブナ林を伐採した跡地を登っていきます。下部はかなり低木が繁茂し、ルートが分かり難いのでルートファインディングに気を使いました。

標高700m付近からスキー場のゲレンデのような広いブナの伐り開きを登ります。その途中の左手に波板トタン葺きの鈴木小屋が見えてきます。

藤倉川の右岸尾根に着き、そこから先はブナ林の中を登ります。米沢頭のピークは知らないうちに通り過ぎてしまい、森林限界を過ぎて広大なオープンバーンに導かれます。

標高1404mの天主森に立ち寄ってから、ブッシュが現れ始めた尾根筋をたどり、ハイマツの藪を少し漕ぐと月山森山頂に着きました。

山頂からの展望は素晴らしく、眼前に行者岳、伏拝岳、文珠岳と西側に標高を落とす鳥海山の外輪山が見えています。北西には千畳ヶ原を取り囲むように連なる笙ヶ岳、御浜、扇子森が普段見慣れないアングルから眺めることができました。

そして東に栗駒山、神室連峰、船形連峰、蔵王連峰、吾妻連峰、葉山、月山、朝日連峰、遠く飯豊連峰まで遠望できます。

帰りは往路を忠実に戻りますが、広大に広がる庄内平野と日本海の大展望を眺めながら下る、爽快感あふれる行程になりました。

(文=曽根田 卓)

谷川岳・天神尾根

暖かい谷川岳で雪洞訓練

「風の谷」の雪洞の掘り方。まず2箇所の縦穴を掘ってから横に掘り進めて、ふたつの雪洞を合体させる(写真=山田哲哉)

オキの耳への登り。背後は越えてきたトマの耳(写真=山田哲哉)

3月31日~4月1日、晴れ

3月末とは思えない好天と暖かさが続きます。今回は雪洞訓練を主たる目的に天神尾根からの谷川岳。しかしはたして、この暖かさで雪洞が作れるのでしょうか? スノーソー2本、スコップ3本の雪洞装備の他に、ジャンボエスパースのテントも持参しました。

天神平は雲ひとつない快晴。ひと登りした天神峠付近でさっそく3.8mのゾンデで雪の深さを探ります。所々に硬い層があるものの、深さは十分。

「風の谷」の雪洞の掘り方は、まず2箇所に縦穴を掘り、横に掘り進み、ふたつの雪洞を合体させる方法です。氷を含む硬い雪質の部分をスノーソーでサイコロ状の雪の塊にして掘り出します。80cmほど掘り進むと中はすべて均質なザラメ雪で急に掘りやすくなり、7人がかりで格闘すること1時間半。左右の雪洞の中に穴が開き、貫通! 後は拡張してできあがりです。ただ、雪質がザラメのため崩落の危険が大きく、休憩と宴会用としました。

雪洞の入口からは正面にトマの耳が真っ青な空に浮かんでいるのが見えます。テント内は陽が落ちるまで暑いくらいの暖かさでした。

翌日は夜明け前にヘッドランプで出発。背後の上州武尊山や尾瀬、巻機山が月明りに浮かぶのを見ながらの登りです。熊穴沢避難小屋手前の岩場と、小屋の上の崩れやすい急斜面はコンテ(ザイルを結んだまま同時に行動すること)で通過。足もとは前日の大勢の日帰り登頂の人々のせいで、がっちりとトレースが刻まれていました。

真っ白で広大な天神尾根は、まだだれも歩いていなくて静かです。暖かいのでヤッケやオーバーズボンを脱ぎ、肩ノ小屋付近で万太郎、仙ノ倉山、苗場と大きく広がる展望を楽しみます。

トマの耳に立ち、オキの耳へ。谷川岳とは思えないような、雲ひとつない晴天でした。下りは熊穴沢付近で始発のゴンドラに乗った多くの登山者と遭遇。高尾山並みの行列が登って行きました。

(文=山田哲哉/山岳ガイド「風の谷」主宰 (株)KAZEエクスペディション顧問 山岳ガイドⅡ)

北八ヶ岳・根石岳

アイゼンで植生を傷つけないよう注意を

箕冠山を抜け、展望がひらけた先(写真=小山貴之)

南八ヶ岳側の展望。奥には南アルプス(写真=小山貴之)

3月31日、晴れ

根石岳は南八ヶ岳と北八ヶ岳を結ぶ稜線上にあり、南北八ヶ岳の展望が良いのが魅力の山です。

桜平中の駐車場より登山開始。まずは夏沢鉱泉への林道歩きです。夏沢沿いに道は続いていきます。登山開始直後は雪もない林道歩きでした。堰堤を過ぎたその先はスケートリンクのように全面凍結した道となっています。アイゼンを装着せずに行けるところまで行ってみよう、との考えが大きな間違いでした。夏沢鉱泉の手前の坂でみごとに転倒。最初からアイゼンを装着するべきでした。

夏沢鉱泉から先は、融雪始まる雪の登山道となります。雪に囲まれた小屋開け前のオーレン小屋で休憩し、箕冠山へと歩を進めます。樹林帯歩きですが、木々の隙間からは中央アルプスが鮮明に見え、行く先の展望に期待が膨らみました。箕冠山を過ぎると一気に展望が開け、東天狗岳、西天狗岳、根石岳が目の前に飛び込んできます。さらに進むと白い壁のごとく連なる北アルプスに視線が集中します。日当たりのよい南側の雪は解け、夏道となっていました。アイゼンをデポし根石岳に向かいます。この場所には根石岳山荘もあり、夏になると小屋前はコマクサが咲き乱れます。

根石岳山頂からは南八ヶ岳、北八ヶ岳の展望に加え、日本アルプス、御嶽山、乗鞍岳、浅間山、秩父山系などの大展望を得ることができました。山頂でしばらく展望に囲まれ下山としました。

桜平中までの林道状況ですが、やや荒れてはいましたが雪は路面にまったくない状況でした。上の駐車場に続く道は通行止めです。夏沢鉱泉までの林道の凍結には要注意です。オーレン小屋はまだ小屋開け前ですが仮設トイレが2基設置されていました。

これからの季節は、雪解けとともに雪で隠れていた夏道や木々や植物の姿が現れてきます。アイゼンの使用頻度もまだまだありますので、くれぐれもアイゼンで植生を傷つけないようにお願いします。

(文=小山貴之/長野県自然保護レンジャー)

八ヶ岳・硫黄岳

素晴らしい展望と日本最高所の野天風呂を満喫

硫黄岳山頂2760mより、赤岳方向(写真=中村重明)

日本最高所野天風呂(2150m)「雲上の湯」(写真=中村重明)

3月31日、快晴

久々に本沢温泉の野天風呂(日本最高所野天風呂・標高2150m「雲上の湯」)目当てで、みどり池入口(稲子湯唐沢橋登山口、標高1574m)~本沢温泉~硫黄岳(標高2760m)を往復しました。無雪期は本沢入口駐車場まで車で入ることができるため、本沢温泉まで約2時間ながら、みどり池入口からだと約3時間半の行程となります。さらに本沢温泉から先は、天狗岳往復だと、白砂新道(本沢温泉~根石岳・東天狗岳鞍部)が積雪期は通行できないため夏沢峠、箕冠山・根石岳経由となり約5時間かかり時間的に厳しいため、硫黄岳往復(約3時間)としました。

みどり池入口駐車場までの道路はこの日、完全に乾いていました。みどり池入口からの登山道もしばらくまったく雪はなく、30分ほど歩いた標高1700m付近でチェーンアイゼンを装着。その先硫黄岳山頂まで、結果的には携行したスノーシューも前爪付アイゼンも使わず、チェーンアイゼンで歩きました。ただしコンディション次第のため、この時季はスノーシューかワカン、及び前爪付アイゼンは携行した方がいいと思われます。

本沢温泉で昼食休憩後、宿泊用の荷物(自炊用の食材やお酒類など)をデポし硫黄岳を往復。森林限界の上はさすがに風が強かったものの、気温は高めで防風着のフードをかぶれば大丈夫でした。

硫黄岳山頂からは、赤岳の雄姿が印象的で、さらに霞んではいたものの、御嶽山、乗鞍岳、槍・穂高連峰、浅間山などの素晴らしい展望も得られました。

下山途中、本沢温泉の手前でお目当ての野天風呂へ。硫黄岳の荒肌を眺めながら、貸し切り状態の温泉を楽しみました。

翌日は暑いほどの好天の下、往路と同じルートを2時間半ほどで下山し帰路につきました。

(文=中村重明)

茨城県・鶏足山、焼森山

谷を黄色に埋め尽くすミツマタ群生地

群生地の遊歩道はミツマタのトンネル(写真=奥谷 晶)

葉よりも先に、枝先へ半球状に密集した花を咲かせるミツマタの花(写真=奥谷 晶)

3月28日、晴れ

季節外れの春の陽気に、開花の知らせが続々と届いています。鶏足山(けいそくさん)・焼森山(やけもりさん)のミツマタ群生地も早くもピークを迎えていました。

上赤沢の鶏足山登山口の駐車場から出発し、弛み峠(たるみとうげ)をへてミツマタ群生地に直行。谷を埋め尽くすミツマタの黄色い半球状の花々に陽光が差し込み、みごとな光景です。

帰路には汗ばむ陽気の中を、鶏足山・焼森山山頂をそれぞれピストン。平日にもかかわらず大勢のハイカーでにぎわっていました。

(文=奥谷 晶)

茨城県・盛金富士

尾根を彩る可憐なイワウチワの群生

「春の使者」とよばれるにふさわしいピンクの濃いイワウチワ(写真=奥谷 晶)

尾根の斜面に連なる白から淡いピンクのイワウチワの群落(写真=奥谷 晶)

3月28日、晴れ

鶏足山駐車場から車で1時間あまり、水郡線下小川駅駐車場へ移動しました。

盛金富士の登山口から伐採地を過ぎ尾根筋の中腹あたりからイワウチワの群落が目につき出します。山頂付近では登山道の両側にも群生が広がっていました。午後の日差しを受けて鋸状の花弁が透きとおるように折り重なって、まさしく「春の使者」の風情でした。

(文=奥谷 晶)

奥武蔵・大高取山

山麓の「むらさき山」で華麗なミツバツツジが満開、春の越生はまるで桃源郷

黒山バス停の東側の里山につくられた「むらさき山」。3000本のミツバツツジが今、満開(写真=佐々木 亨)

左上:奥武蔵の山々を背景に咲き競うミツバツツジ 右上:「むらさき山」ではカタクリ群落の花も見ごろ 左下:地主さん手づくりの公園で、1周15分ほどの散策路がある 右下:桂木観音ではサクラが満開、ミツバツツジは咲き始め(写真=佐々木 亨)

3月31日、晴れ

奥武蔵の里でもサクラが見ごろとなったこの日、埼玉県越生(おごせ)町の大高取山へ足を運んできました。JR八高線・東武越生線越生駅に面した大高取山は、駅から歩けるハイキングコースとして親しまれていますが、今回は、越生駅からバスを利用し、終点の黒山バス停から歩きました。

黒山バス停の東側の「むらさき山」では、例年より1週間ほど早く、ミツバツツジが満開。里山の斜面をピンク色に染め、その風景はまるで桃源郷のようです。

「むらさき山」は、里山を守ってきた地主さんらが、10数年前から3000本のミツバツツジを植栽、こつこつと育ててきた手づくりの里山ガーデンです(入園料として寸志)。ここ近年、開花時期の美しさが口コミやSNSで伝わり、訪れる人が増えてきました。

満開のミツバツツジを堪能したあとは、サクラに囲まれた桂木観音を見て、大高取山へ登り、虚空蔵尊へと下りました。

ミツバツツジとサクラの見ごろは、4月8日くらいまで。4月中旬以降は、大高取山東麓の五大尊つつじ公園で、12種類、約10,000株ものツツジが咲き始め、春爛漫の里山風景が楽しめます。

(文=佐々木 亨/山岳ライター)

東京都・箱根山~新宿御苑

季節の移り変わりに触れられる場所

中腹の桜の林から箱根山の山頂を見上げる(写真=石丸哲也)

左上:チョウシュウヒザクラ 左下:さまざまな桜が入り混じって咲く様も魅力 右:散り敷いた花びらも美しかった(写真=石丸哲也)

3月31日、快晴

首都圏近郊などの低山で花が咲き出すこの季節、先週末は新潟の角田山のオオミスミソウ(雪割草)やカタクリに会いに行こうと考えていたのですが、前週の高尾山と鎌倉がとても楽しく、近場の自然にふれることにしました。具体的には、高尾山と鎌倉をリピートして、季節の変化も確かめたいと考えたのでした。そんなところへ、例年より早く満開となった桜の便りがあちこちから届き、30日(金)、新宿御苑へ出かけたところ、これまた楽しくて、一日いたのに賞味しきれない感じで、翌日も新宿御苑へ行くことに。とはいえ、せっかくの週末を新宿御苑だけというのももったいない感じがして、今年1月21日にたずね、こちらでもレポートした箱根山に登ってから、新宿御苑へ向かうことにしました。

箱根山は同じ新宿区の戸山公園内にある築山で標高44.6m。東京23区最高峰とされています。「山腹」や「麓」にソメイヨシノが植えられた桜の名所でもあります。近所の桜の咲き具合から、ピークは過ぎても、まだ花を楽しめると思われました。1月は新宿御苑から箱根山へ歩いて「縦走」したのですが、新宿御苑に滞在する時間をとるため、今回は電車で移動しました。箱根山の「登山口」となる西早稲田駅から新宿御苑新宿門に近い新宿三丁目駅まで東京メトロ副都心線6分。今回は、混みあう新宿門を避け、大木戸門から入園することにし、料金も初乗りの170円で変わらないこともあって丸ノ内線に乗り換え、新宿御苑前駅で下車することにしました。

西早稲田駅から箱根山へは、明治通りを南下するほうが若干、近いのですが、行き帰りで違う道を周回したく、北へ向かい、学習院女子大を回りこんでアプローチしました。公園内に入るとすぐ、広げた枝いっぱいに花をつけたソメイヨシノが迎えてくれました。箱根山に着き、斜面の階段をひと登りの箱根山山頂のまわりの桜もまだ見ごろ。1月は葉を落とした梢越しにビル街が見えていましたが、この日は花の雲に囲まれていました。「下山」は西へ。通り過ぎる公園や民家にはヤマブキ、花桃、菜の花、チューリップなどが咲いて、春全開でした。

新宿御苑に入園したのは10時ちょうど。覚悟していたほど混んではいなくて、ゆっくり花を楽しめました。こちらのソメイヨシノは散り始めでしたが、全体にはまだ花がついていて、オオシマザクラ、八重桜のシロタエ(白妙)など満開、ヤエベニシダレ(八重紅枝垂)などは満開、やはり八重桜のイチヨウ(一葉)は咲き始め、カンザン(関山)などはつぼみという状況でした。中でも、薄紅の花が満開のチョウシュウヒザクラ(長州緋桜)が今回のベストの美しさ。全体も綺麗だし、光を透かした花びらも美しく「衣通姫」などという言葉が浮かんできたりしました。

新宿御苑は江戸時代の大名屋敷、明治に入ってからの宮内省植物御苑、庭園改造、大正時代には皇室のゴルフ場として利用、戦後、国民公園として開放などの変遷を経て、現在に至っています。庭園、農事試験場、公園などに利用、造成されてきて、人工的な要素も多くありますが、一方で、庭園の周辺にはシイ・カシの常緑樹林、コナラなどの雑木林や下草がなるべく手を入れない状態に保たれています。最近ではビオトープの母と子の森も造られて、本来、武蔵野にあっただろう自然にふれることもできます。新宿駅から徒歩10分、高尾山よりずっと近く、季節の移り変わりにふれられるフィールドとして、私には貴重な存在です。

(文=石丸哲也/山岳ライター)

高尾・高尾山とサクラ保存林

1300本の桜をたずねて

ヤマザクラが咲き始めた高尾山山頂。春霞で富士山は見えなかった(写真=石丸哲也)

上:日影沢のニリンソウ 中:左からタカオスミレ、ミツバツツジ、イヌブナ 下:様々な品種、名木を見られるサクラ保存林(写真=石丸哲也)

4月1日、晴れ

3月31日の箱根山~新宿御苑で書いたように、近郊の低山の自然を継続的にウォッチするべく、先週に引き続いて高尾山に行ってきました。先週は高尾山口駅から6号路~高尾山~3号路の周回でしたが、今回は日影バス停~日影沢~高尾山~4号路としました。さらに、春の高尾山で、必ず訪ねたいポイントのひとつ多摩森林科学園サクラ保存林も寄る計画です。こちらも例年より花が早く、中咲きの品種が見ごろのようです。

サクラ保存林は高尾駅北口から徒歩10分。これまで混雑を避けて9時の開園とともに入園し、午前中に花を愛でたり、写真を撮ったりしていました。今回は、午後の光線の具合など確かめたく、帰りに寄ることにして、小仏行きのバスに乗車し、日影で下車し、日影沢林道に入りました。名前のとおり林道を歩きますが、途中に車止めゲートがあり、行き止まりなので、車はほとんど通らず、また、豊富な山野草を見たり、写真を撮ったりしても道をふさぐことはないなど、花好きに人気が高いコースです。

日影沢林道に入るとすぐ、アブラチャン、アズマイチゲ、ユリワサビなどの花に迎えられます。さらにタカオスミレ、カントウミヤマカタバミ、コチャルメルソウ、ヨゴレネコノメ、ナガバノスミレサイシンなど次々に現れます。とくに日影沢キャンプ場の上流、沢沿いのニリンソウは群生して、お花畑のような感じです。以前はもっと見事だったのですが、登山者の踏みつけで激減し、ロープが張られるなどの対策がされて、復活してきています。

日影沢林道を詰めて小仏城山に登り、高尾山へ向かう予定でしたが、花ウォッチングや撮影に時間がかかり、サクラ保存林に着くのが遅れてしまいそうなので、逆川作業道に入り、直接、高尾山へ向かうことにしました。このように融通がきくのも高尾山のいいところです。奥高尾縦走路へ出て、もみじ台に寄ると、イロハモミジの赤い新芽が開きはじめたところで、付近の桜も開花していました。

高尾山山頂はヤマザクラが開花していましたが、まだ花盛りには早く、人混みも思ったほどではありませんでした。下山は4号路へ。イヌブナなどの若葉が美しく、ナガバノスミレサイシンやミヤマシキミが咲く道を下り、1号路に出ると、霞台でソメイヨシノ、ミツバツツジが満開でした。金比羅台から金比羅道に入ると、先週は麓でもまだツボミが堅かったヤマブキがあちこちで満開になっていて、春が進む早さに驚かされました。国道20号に出て高尾駅方面へ向かい、JR中央本線のガードをくぐったところから南浅川沿いを歩いてサクラ保存林へ向かいました。

サクラ保存林は農林省の桜対策事業の一環として1966年に設置され、各地の名木や品種を保存、研究していて、様々な桜が約1300本、植えられています。種類が多く、色合いが白から濃いピンクまで多様で美しく、また長く花を楽しむことができます。丘陵地に広がり、一周する園路を中心に歩道が整備され、ゆっくり花を楽しむには1~2時間はほしいところです。保存林の桜も例年になく早いペースで開花が進んでいるとのことで、当日はソメイヨシノの系統の品種、母種のオオシマザクラ、エドヒガンなどが満開。例年なら4月なかば~下旬が見ごろになるサトザクラの系統の花も咲き始めていました。

サクラ保存林は、今のペースで開花が進めば、今週末から来週ごろには見ごろの木が最も多く、彩りが鮮やかなサトザクラの系統の花も咲いて、楽しめそうです。高尾山山頂の桜は今週末が見ごろ、一丁平、小仏城山への奥高尾縦走路も来週にかけて見ごろになりそうな感じです。サクラ保存林のホームページでは最新の開花情報が詳細に紹介されています。高尾山の開花情報は高尾ビジターセンターのホームページが詳しいので、確認してから出かければ確実です。

(文=石丸哲也/山岳ライター)

神奈川県北・峰山

新緑の季節は家族連れにもおすすめ

峰山展望台から正面に北丹沢山塊、富士山、右に道志の山が望まれる(写真=白井源三)

左:峰山下山口、小舟の集落から焼山からの丹沢主脈を望む 右:藤野やまなみ温泉裏の丘に登ると、早咲きの桜が満開。峰山が佇む(写真=白井源三)

3月25日、晴れ

藤野やまなみ温泉の正面にたたずむ峰山は、地元では古くから燃料の宝庫として親しまれた里山です。

登山は4地区から登られますが、今回はJR藤野駅から奥牧野行きバスに乗り、大鐘バス停で下車、少し戻り蓮乗院手前峯山2.3kmの道標から登りました。ウグイスが鳴き始めたゴルフ場下の林道を登り、やがて細い登山路になります。舟久保分岐を過ぎて短い鉄橋を渡っていきます。檜林越しに奥高尾山稜や石老山の山並みが望まれました。

やまなみ温泉からのルートと合流したら、右手に登っていきます。足もとに風神、竜神、雨神の碑が檜林に立ち前方には古峯神社が見えました。旧相模原市藤野町、藤野山岳会、最近では牧野元気創生会の有志の皆さんで登山路が整備され、ベンチも随所に設置されています。

山頂には展望台が設置され、北丹沢山塊から富士山、道志の山々が広がります。南側には石老山からギフチョウで有名な石砂山が望まれます。例祭は山頂で5月3日に行われ、周囲13地区から集まった住民でにぎわうそうです。

下山は、階段の付いた急な尾根を下っていきます。綱子・菅井への分岐を2本越え、小舟側に降ります。小沢を渡り、舗装された南面の林道に出ると、右手に焼山からの丹沢主脈が高みに望まれます。閑静な小舟の集落を下り、バス停の立つ県道に出たら左に曲がり約15分でやまなみ温泉バス折り返し場に着きます。下山後、藤野やまなみ温泉でひと風呂浴びて帰るのも一興です。

なお、一般路として、この温泉前の小学校脇から登るルートがあります(約1時間)。自然林の多いこの山域は、家族連れでこれからの新緑の季節もお勧めです。

(文=白井源三/『神奈川県の山』共著者)

神奈川県北・津久井城山

家族連れハイキングにおすすめの山

津久井湖城山公園花の苑地から津久井湖を隔てた水の苑地より津久井城山を望む(写真=白井源三)

左:南高尾山稜の峰ノ薬師から桜の名所津久井城山を俯瞰する 右:津久井湖城山公園の根小屋地区パークセンターからの登山口(写真=白井源三)

3月28日、晴れ

戦国時代、津久井城山には山城が建ち、北条氏の支城として津久井一帯を拠点とする重要な役割を果たしましたが、天正18(1590)年、豊臣秀吉の小田原攻めの際に落城。現在もその遺構が発掘され、歴史や山城跡散策にも適した山です。

登山口は県立津久井湖城山公園花の苑池側と反対側の根小屋地区パークセンターの2箇所から主に登られます。ともに無料駐車場があり、マイカー登山にも最適です。今回は、桜の名所、花の苑池前、津久井湖観光センターバス停から登りました。

満開の桜並木を登っていきます。江戸時代、江川太郎左衛門が植林したといわれる、ひのき林を過ぎ、しばらく登っていくと鎖場があり、上部にベンチが置かれています。照葉樹林の足元にはニリン草やスミレが咲いていました。約30分後、再びクサリ場が現れて間もなく鞍部に着きます。左に折れると5分ほどで鷹射場(たかうちば)展望台に着きました。晩秋から冬の空気が澄んだ日には、遠くスカイツリーや横浜ランドマークが望まれますが、この日は春霞で展望がきかず、眼下の相模川が光っていました。

引き返して分岐を越えて年間水を湛える小さな宝ヶ池を左に登っていくと丹沢方面の展望台に着きましたがここも霞で、丹沢山塊の前衛峰・南山がうっすらと見えました。

上部の飯縄神社に参拝して階段を下ると女坂からの道と左にパークセンタ―に下る道の分岐に出ます。そのまま直進して引橋を渡り登り返すと、築井(つくい)古城記碑が立つ城山城址でもある城山山頂に到着です。トイレ側から眼下の津久井湖を隔てて南高尾山稜の峰の薬師が望まれます。ベンチは丹沢山塊の展望台となっています。

分岐まで引き返し、右のパークセンター側へ下っていきました。いっきに下ると、右に女坂、左に小倉橋側への縦走路が延びています。さらに下り、根小屋側の公園内に着き、少し右にベンチが置かれた丹沢方面の展望台には陽光を浴びて散策者が寛いでいます。引き返して螺旋回廊のデッキ園路を下っていくとパークセンター前に着きました。館内には津久井城に関する資料が展示されています。帰路は遊具で遊ぶ親子連れでにぎわう四季の広場を登っていきました。登り詰めると、眼下に津久井湖、上部に南高尾の峰ノ薬師が望まれました。最近、完成した城山山麓に延びる湖畔展望園路を進んでいくと、出発地の津久井湖観光センターがある花の苑池に到着です。

半日でも簡単に登れる山で、これからの新緑期、家族連れハイキングにもおすすめです。

(文=白井源三/『神奈川県の山』共著者)

湘南・高麗山~湘南平

大展望と早春の彩りを満喫

湘南平のテレビ塔より高麗山からの萌黄色の稜線と相模湾を望む(写真=白井源三)

左:東海道五十三次の浮世絵にも描かれた高麗山。麓の花水川は桜の名所 右:満開の桜に囲まれた湘南平のシンボル、テレビ塔が立つ(写真=白井源三)

3月30日、晴れ

東海道線に乗り、平塚を過ぎて車窓に濃い緑のこんもりした山が見えてくるのが高麗山です。歴史の山で、奈良時代、相模湾から大磯の海岸に上陸する渡来人の目標となり、その後、麓の化粧(けわい)坂あたりに住み大陸の文化を伝えたと言われています。山麓の神社は「高麗神社」とよばれたが、日本の朝鮮支配で「高来(たかく)神社」と改称されました。全山常緑樹に覆われていますが、なんといっても、この山が一番にぎわいを見せるのは萌黄色の山肌と桜のコントラスが美しい早春の季節でしょう。

満開の情報を聞いて、高来神社から登ってみました。桜の境内で散策と参拝をすませて女坂を登ります。芸術的な樹形をした照葉樹林の下を進んでいくと、湘南の海が見え、東海道線を走る電車の音が聞こえてきました。

男坂と合流して、階段を詰めると、高麗山です。大堂といって以前、上宮があった跡地で展望のない広場となっています。下って、北条時代の掘り割りに掛けられた橋を2本渡ると、八俵山です。大磯の海岸が眼下となりました。広い登山路をアップダウンすると、ここも展望がきかないが、一等三角点と小さな鳥居が置かれた浅間山へ到着。周辺は高木の山桜が満開となって、たわわに花を広げていました。

下って階段を登っていくと首が痛くなるほどに高く突き出たテレビ塔が立つ湘南平に到着です。広場を囲む桜は満開で、富士山は望めませんでしたが、三角形の大山、眼下に遠く三浦半島から江の島、大磯の海岸線が広がります。低山ながら大展望と目に優しい早春の彩りに満足した山行でした。

(文=白井源三/『神奈川県の山』共著者)

鈴鹿山脈・霊仙山

フクジュソウを楽しみ、石灰岩の尾根を歩く

探すと岩影のそこかしこにフクジュソウが(写真=山口敬二)

最高点から霊仙山山頂へと向かう(写真=山口敬二)

3月31日、晴れ

鈴鹿山脈の最北に位置する霊仙山(りょうぜんざん・1094m)は、伸びやかなカルスト地形の山稜から眺める琵琶湖や雄大な近江盆地の景色とともに早春のフクジュソウが人気の山です。コースはいくつかありますが、この日は落合の廃村に設けられた駐車場に車を停め今畑から西南尾根を登りました。

笹峠からブナ林を抜け、近江展望台までは急登が続きますが、頂上へと導かれる開放的な稜線では、胸がすくような絶景や、艶やかな黄色い花弁が印象的なフクジュソウが目を楽しませてくれます。頂上で滋賀県最高峰の伊吹山(1377m)を眺めながらお昼にすると、麗らかな春の日差しについトカゲを決めたくなるような心地よさです。

下山はカレンフェルトのなだらかな台地を巡り、経塚山(1040m)から汗ふき峠、そしてもと来た落合集落跡へと周回しました。

(文=山口敬二)

福岡県・観音山

ヤマザクラ咲く里山を歩いてきました

御清水ヶ池越に望む観音山(写真=長谷川守克)

今が見ごろとばかりに咲き誇る早苗姫桜(写真=長谷川守克)

3月30日、晴れ

自宅からいつも眺めている観音山の山腹がヤマザクラの開花でピンク色に染まり、美しい光景だったので観に行ってきました。

本山は山腹に「胸の観音本堂」が祀られていて、四季を問わず多くの参拝者が訪れる山です。昔は等覚寺の山伏が峰入りしていた霊場で「峰の観音」と呼ばれていましたが、明治以降、胸の病にご利益がある観音さま「胸の観音」と呼ばれるようになったそうです。

風もなく暖かい中、自宅を出発し、歩を進めて行くと胸の観音本堂に到着しました。まずは、参拝を済ませた後、奥の院入口で咲く、「早苗姫桜」を観に行くと、今が見ごろとばかりにきれいな花を咲かせていました。先客のご夫婦と「きれいですね」と話し込んだ後、山頂を目指します。

山頂までの道筋にも、開花したヤマザクラが目につき、そのつど立ち止まり眺めながら、歩を進めました。山頂には10数名の団体さんがいて、お聞きすると福岡市内から来られ、みごとに開花したヤマザクラを観ることができて来た甲斐があったとのことでした。

花見を堪能したので、下山を開始します。下山後、毎年素晴らしい光景を眼にできる、御清水ヶ池に立ち寄り、染井吉野を鑑賞後、帰路につきました。

(文=長谷川守克)

福岡県・福智山

推定樹齢600年の虎尾桜

虎尾桜(和名:エドヒガン)は樹高17m、周囲3.8m、推定樹齢600年(写真=池田浩伸)

鷹取山山頂でくつろぐ登山者。奥には福智山が見える(写真=池田浩伸)

3月31日、晴れ

推定樹齢600年といわれる虎尾桜が満開を迎えたと聞いてさっそく登ってきました。

上野峡の駐車場は、ほぼ満車に近い状態です。駐車場から登山口までの車道脇の桜も満開で、時折吹く風に花びらが舞っていました。

落差25mの白糸の滝を過ぎしばらく登って分岐を左に下ると虎尾桜に到着。たくさんの登山者でにぎわっていました。高さ約17m、大きく伸ばした枝に深いピンクの花びらがとてもきれいでした。

福智山山頂で気持ちのいい風に吹かれながら昼食を済ませた後、鷹取山へ向かいます。鷹取山は展望が良いのです。そこに、たくさんのスイセンの花が植えられていて驚きました。スイセンのことを知らずに登ってきた登山者も、みなさん驚きの声を上げていました。

虎尾桜はまだ花びらが落ちておらず、スイセンもツボミが残っていたので、まだ数日は見ることができるかもしれません。

(文=池田浩伸/登山ガイド)

裏磐梯・雄国沼、金沢峠

雄国沼火口の外輪山、金沢峠へ

金沢峠の北のピークをめざします(写真=葉貫正憲)

春の様相の雄国沼休憩舎と奥にそびえる雄国山(写真=葉貫正憲)

3月26日、快晴

金沢峠はニッコウキスゲの季節に喜多方市側よりシャトルバスが走り、サンダル履きの観光客でにぎわいます。しかし、冬場に道路が封鎖されるとほとんど訪れる人もいません。好天の会津平野を峠から眺めたいと思い、雄子沢口より歩きました。

夏道とほぼ並行に走る雄子沢川の沢沿いを沼の直下まで上ります。雪が多く歩きやすいのですが、雪解けは予想以上に早いようです。雄国山への分岐から林の中を直進すると次第に斜面がきつくなり、稜線も近づいてきます。急斜面から一気に稜線へ上がると大パノラマが広がりました。眼下に広がる雄国沼とその向こうには磐梯猫魔の山々が。ただ安達太良・吾妻、飯豊連峰などの遠望はぼんやりと霞んでいました。

北東へは雄国山の稜線が続きますが、今回は南西の金沢峠のピークをめざします。ピークに立つと、夏場に沼を一望できる展望台は雪に埋もれていました。道路の痕跡も雪に埋もれています。

稜線部は西風が強いので、少し沼側へおりて休憩。藪全体が雪で覆われ夏場とは様相が一変していました。ここから休憩舎へ向かいましたが、あるはずの遊歩道がまったく見当つかないほどの斜面でした。できるだけゆるやかに進もうとしたのですが、沼の方へ下りてしまい、取水口にぶつかって慌てて上りかえし、右往左往しながら進みました。ようやく休憩舎の屋根を見つけたのですが、思いがけない方角にあって、勘をたよりに歩くのは当てにならりません。

休憩舎からは上りのときの踏み跡を探しながらゆっくりと快適に下りました。ただ調子に乗りすぎて沢沿いに進みすぎると、あるはずの雪の橋が落ちていて行き止まりに。踏み跡には気づいていましたが、「まっすぐおりてもいけるはず」という根拠のない思い込みが原因でした。

9時35分にスタートし、13時30分下山。総行程約7km、約4時間の雪歩きでした。

(葉貫正憲/福島県/70歳/よく行く山:福島県の山)

茨城県・吾国山

最盛期を迎えたカタクリ

笠間市のホームページによると、この群落は9314平方mといわれる(写真=萩原修哉)

3月29日、快晴

茨城県中部の吾国山(わがくにさん)には、北西斜面に9314平方mといわれるカタクリの群落があります。暖かい日が続いたため、カタクリは例年になく早く見ごろを迎えたようです。この日も快晴で暖かく、10時過ぎにはみごとに開いていました。

カタクリの群生地だけなら歩いて5分ほどの「切通し」まで車で行けますが、今回は少し離れた愛宕山の駐車場から歩き始め、帰路は館岸山経由の周回コースをとりました。このため愛宕山周辺の桜やコブシ、モクレンを眺められ、帰路に通った集落では菜の花や生け花用に栽培されている花桃がきれいに咲いており、まさに春本番の風情を楽しむことができました。

(萩原修哉/茨城県/65歳/よく行く山:関東近辺の山)

富士山・双子山

富士山トレッキングをしてきました

上:富士山麓のシカ 下:富士山と双子山(写真=葉山美和)

富士山麓から眺める越前岳(写真=葉山美和)

3月25日、快晴

標高約1400mにある水ヶ塚公園駐車場に車を停めました。ちょうど1年前に同じコースをスノーシューで散策しましたが、今回は雪が硬くしまっていたこと、目標を双子山にしたことで、アイゼンを選択しました。公園前の道路を横断するとすぐ登山口があり、そこでアイゼンを装着します。

コース上には少ないものの踏み跡やスキー、スノーシューの跡があり、迷わず進めます。南山休憩所を経由して幕岩下まで進みました。

幕岩を通過する時ににぎやかな声とともに、スノーボードとスキーのパーティとすれ違いました。その声にも動じず、シカが現われました。人馴れしているようで、撮影していても近づいてきます。

幕岩上から、前歯のアイゼンがよくきく急勾配を登ると森林限界となり、山頂と双子山が見えてきました。四辻まで来ると残念ながらタイムアップとなり、双子山山頂は諦め、麓で絶景を眺めながら休憩を取りました。

下山は往路を幕岩下まで戻り、直進して御胎内へ進みました。御胎内から駐車場までは平行移動となります。午後になると3月とは思えないほどの気温になり、硬かった雪道もかなり緩んで一歩毎に踏み抜くようになり、疲労困憊です。途中で再度シカと遭遇したことで疲労も回復し、無事駐車場に到着しました。

双子山登頂は次回の宿題になりました。

(葉山美和/千葉県/よく行く山:中央線沿線の山、奥高尾)

金剛山地・金剛山

花を愛でながらの山歩き

左上から時計回りにカタクリ、シュンラン、シハイスミレ、フクジュソウ(写真=小林昭生)

4月1日、晴れ

今年は桜の開花が例年より1週間から10日ほど早かったようです。山の花々も早めの開花となっているのではと思い、近くの金剛山を歩いてみました。

桜が満開の登山口から5分くらい登ったところで林の中にシュンランを見つけました。昨年と同じ場所です。昨年は4月22日だったので、20日あまりも早い開花です。シュンランは乱獲されて自生のものは貴重といわれます。盗掘されておらず幸いでした。

以前、同じルートを歩いていて立派なササユリに出会ったことがあります。あと1週間ほどでみごとな花を咲かせる様子だったので今回楽しみに訪れると、そこにはぽっかりと穴があき、根こそぎなくなっていました。盗掘されたササユリは哀れとしかいいようがありません。公徳心の欠如した輩の存在は、まことに残念なことです。

展望台近くの斜面に咲くカタクリは例年4月中旬ごろから咲きはじめますが、ここもすでに満開に近い状態でした。足もとに紫背(シハイ)スミレを見つけましたが、こちらは咲き始めたばかりの様子。一方、別の斜面にはまだフクジュソウが残っていました。こちらは名残の花といったところです。咲く花が早かったり、遅かったり、自然の不思議さを感じずにはおられません。

77歳になりました。佐藤愛子さんのタイトルを借りれば、77歳何がめでたい、10kgを背負う体力なし、歩くスピードがた落ち、それでも懲りずに歩いています。仲間の数人は腰痛などでリタイア、数人は病死、歩けるのは10歳および15歳年下の後輩ふたりになりました。仕事も山歩きもそろそろ引退の時期かもしれません。当分は近場の低山を徘徊しながら花を愛でることになりそうです。

(小林昭生/奈良県/77歳/よく行く山:金剛山系はじめ関西一円の山々)

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週刊ヤマケイ「表紙写真」「読者の登山レポート」「山の川柳」「よもやまばなし」応募要項

週刊ヤマケイでは、読者の皆さんから表紙写真、登山レポート、山の川柳を募集しています。また新たに「よもやまばなし」も募集します。ぜひあなたの作品をお送りください。

【表紙写真について】

●タテ位置で撮影した写真に限ります。

●横幅1200ピクセル以上のjpeg画像。

●写真に簡単な説明も添えてください。


【読者の登山レポートについて】

●本文200字~300字。1ヶ月以内の山行に限ります。できれば2週間以内の情報をお寄せください。国内・海外は問いません。山名・日程・天気を明記。登山道の様子や開花状況などもできるだけ盛り込んでください。

●写真キャプション(写真の解説を簡単なもので結構ですので付けてください)

●お名前(ふりがなもお願いします。匿名、ペンネームでの掲載は不可です)

●メールアドレス

●年齢

●郵便番号と住所

●登山歴

●よく行く山名、山域

※文字数を大幅に超えたものは対象外となります。掲載の目安は、投稿から約2週間です。掲載、不掲載についての事前連絡はしておりませんので、あらかじめご了承ください。


【山の川柳】

「夏休み 孫と一緒に 百名山」

「お父さん 登山道具を 片付けて」

「登れども登れども ぴくりとも動かぬ 体重計」など、山に関する川柳を募集します。どうぞ気軽にお送りください(川柳の投稿はペンネームでも可)。編集部が審査して、段位を授与します!


【よもやまばなし】

山で体験したちょっといい話や不思議な話、使って役立った装備や安全登山のための工夫、昔の登山の思い出などを募集します。お気軽にご投稿ください。こちらの投稿もペンネーム可です。文字数は400字以内でお願いします。


投稿先メールアドレス

weekly@yamakei.co.jp

※メールの件名に必ず「週刊ヤマケイ・表紙写真応募」または「週刊ヤマケイ・読者の登山レポート投稿」「週刊ヤマケイ・山の川柳」「週刊ヤマケイ・よもやまばなし」とお書きください。

※表紙写真に採用された方、読者の登山レポートに採用された方には週刊ヤマケイのロゴ入り測量野帳を進呈します(初回のみ)。また山の川柳で高段位になられた方にも測量野帳を進呈します。どしどしご応募ください。

編集後記

今年は雪が多いなぁ~、とのんきにかまえていたら、あっという間に雪が解けているようです。雪山よ、さよなら、さようなら雪山、また会う日まで・・・・・・。

さて今週も皆さんからいただいた声をご紹介いたします。

「山行記がいちばん楽しみではありますが、画像付きのハウツーなども面白いかも?」

「登山者のブックシェルフは、紹介されないと知り得ないものが多く一番の楽しみです(廃刊ものは残念ですが)」

「自力ではとても行けそうにない厳しめの山行紹介もあり、楽しく拝読しています」

「石丸さんの記事はいつもその時々の山の季節を感じ、楽しく読まさせていただいています」

皆さん、本当にありがとうございました!

さて、先週のアンケートでご協力いただいた方へのカレンダープレゼントですが、厳正なる審査の結果、佐藤潔さん(岐阜県)、さわだゆうりさん(愛知県)、山田芳生さん(兵庫県)、あらいこいちさん(山形県)、三木恵美さん(香川県)が当選されました! あらためて編集部からメールをお送りいたしますので、少々お待ちください。

というわけで、今回もアンケートを行います! 下記よりご記入ください。簡単なアンケートですので、よろしくお願いします。ご協力いただいた方のなかから抽選で2名様にヤマケイ文庫を1冊プレゼントいたします。

https://goo.gl/forms/bgdYgS5H8t5lJPQq1

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