2021年05月28日(金)
こんにちは。
編集部の辻です。
6月号が発売されてまだ2週間ほどですが、7月号の完成が近づいてまいりました。
編集部にとっては1カ月で一番忙しい時期です。
入社2カ月の私が担当しているページはわずかで、私はまだあまり忙しくないです。
制作も大詰めの7月号、特集は「槍・穂高大全」です。
ヤマケイ7月号はアルプス特集(特に北アルプス)が多いですが、今回は槍・穂高連峰と狭いエリアに絞って、その分各ルートの特徴から開拓秘話まで、魅力を深く掘り下げています。
槍・穂高というと、私が真っ先に思い浮かべたのは、北鎌尾根。
北鎌尾根は槍ヶ岳から延びる、登山道の通っていないバリエーションルートです。
私は北アルプスに登ったことがなく、北鎌尾根以外はほとんど何も知りません。
北鎌尾根についても、入社前の研修でヤマケイ文庫誕生の話を聞いた時に知りました。
ヤマケイ文庫は、現在では手に入りづらくなってしまった山の名著を、廉価で多くの人に提供するため、2010年に加藤文太郎(かとう・ぶんたろう)著『新編 単独行』と松濤明(まつなみ・あきら)著『新編 風雪のビヴァーク』の2冊の発行とともにスタートしました。
すでに山岳文学の名著としてあったその2冊には、版によって誤植や割愛された部分があったために、再編集してヤマケイ文庫として出版したのです。
ヤマケイ文庫はこの2冊を再編集するために生まれたと言っても過言ではないのです。
そこからヤマケイ文庫は、山や冒険の名著を多く復刊してきました。
さて、その初めの2冊の著者ですが……
『単独行』の加藤文太郎は新田次郎の『孤高の人』、『風雪のビヴァーク』の松濤明は井上靖の『氷壁』の主人公のモデルになった人物であり、日本登山史に名を残す伝説的な登山者。
偶然にもこの2人は、同じ「山」で遭難死しています。
それが槍ヶ岳・北鎌尾根です。
加藤は1936年、松濤は1949年に遭難しました。
『新編 単独行』と『新編 風雪のビヴァーク』には、彼らが遭難した時の記録や遺書が載っています。そのほか、山行記録や、山に対する彼らの真摯な考えが書かれ、その記録や言葉の一つ一つから、小説の主人公とは違う、リアルな2人の姿を知ることができます。
またこの2冊は、槍ヶ岳をはじめとして、彼らが挑んだ山々に関する記録でもあります。
彼らが登った山は、同じ山でも現在の姿とはまるで違います。
整備が行き届く前の、いうなれば「本来の姿」に近い山です。
北鎌尾根をはじめ、彼らが登ったルートは、今でも登山道でないところも多いですが、それもまた山の一面。
ヤマケイ文庫誕生のきっかけになったこの2冊には、槍ヶ岳が彼らにしか見せなかった一面が描かれています。
ぜひ、その一面を目撃してください。
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