2021年10月29日(金)
こんにちは。
編集部の辻です。
先日、仕事終わりに神保町で古本屋の店先のワゴンを物色していると、こんな本を見つけました。
渓!
なんとシンプルで魅力的なタイトルなのでしょう!
著者は黒部の先駆者、冠松次郎です。
その場で前書きを読んで、さらに痺れました。
一部抜粋します。
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一度山の頂を極めると、いっぱしその山をよく知っているような風をする。
……
山を登るのに最も便利のよい、楽な処へつけられた登山路によって登ることは、多くの場合その山を知る第一歩に過ぎないのである。
立派な山々の懐には、幽邃な森林に被われ、あるいは壮大な岸壁によって囲まれた溪谷が幾つか潜在している。そういう渓によって山の頂に達することは、最も興味深く、真剣味を伴う印象的なものである。
……
私の山旅は五十年来、主に溪谷から峻嶺によじ登る登山によって、山の神秘と複雑さを味わった。渓行を手段としないで、山に親しみ渓を味わうことによって登山の生命を感じたばかりでなく、山の自然の立体的な壮麗さに額づいた。
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本編は、黒部をはじめとした日本アルプスや奥秩父などの谷の紀行と、随筆で構成されています。
冠松次郎が歩いた谷は、情報が少なく美しい森林や豪快な滝に遮られ、先がわからない、未知の領域。進むほどに、山の内部深くに入っていくような感じがします。
それは、登山というよりも旅のようです。
谷を歩き、壁をよじ登り、そこで食べ、寝ることで、山と融け合うような旅です。
今の時代には、冠松次郎ほど未知に富んだ探検的な山旅はできないように思いますが、それでも原始に近い山を味わう山旅はまだできるように思います。
私もそういう山旅をしたいなあ。
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